韓国映画の奇才ポン・ジュノ監督の全作品あらすじ解説:『パラサイト』のルーツは過去作にある!?

スポンサーリンク
おすすめ作品・俳優

2020年のアカデミー賞は90年以上の歴史を誇るアカデミー賞の中でも異例の年になりました。

韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が外国語映画として史上初の作品賞受賞という快挙を成し遂げたからです。さらには、ポン・ジュノは監督賞・脚本賞にも輝き、合計4つの栄冠を獲得しました。

今回は、今最も注目される映画監督ポン・ジュノの過去の長編作品を振り返って、傑作『パラサイト 半地下の家族』のルーツを探っていこうという特集です。

”韓国のスピルバーグ”、”韓国の黒澤明”とも称される奇才ポン・ジュノ。

それでは、いきましょう。

Contents

スポンサーリンク

ポン・ジュノ監督作品の特徴

『パラサイト 半地下の家族』は、半地下に住むキム一家が、丘の上の豪邸パク社長一家に寄生”パラサイト”していくという物語でした。ふたつの家が明確な対比として描かれていかにも現代の「格差社会」を批判した社会派の作品の見た目をしています。

しかし、ポン・ジュノ監督は過去のインタビューの中で、「面白い映画」を作ることを常に目指していて、現代社会への皮肉や風刺は、現代劇を作る上での前提でしかないと。

常に面白い映画を作ることを目指してきた監督の作品群は、ひとつのジャンルやテーマで語ることが出来ないポン・ジュノ的としか言いようがないヘンな作品ばかり。

ハリー
ハリー

そのヘンさがたまらないですよね。

そんなヘンな作品群には、いくつか特徴的な要素が見つかります。今回は、3つのポイントを取り上げていきます。

物語に密接にからむ舞台設定

ポン・ジュノ

(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

まず、ポン・ジュノ監督作品で特徴的なのは、舞台設定が物語の展開やテーマに密接に絡んでいくことが多いという点です。

「パラサイト~」では、半地下の家族と高台の豪邸という上下の対比が、格差のメタファーとして表現されていましたし、デビュー作『ほえる犬は噛まない』では、ほとんどの展開が団地の中で繰り広げられました。クリス・エヴァンスを主演に据えた『スノー・ピアサー』では、列車という閉鎖空間で繰り広げられる闘争を描きました。

ポン・ジュノ監督の舞台の使い方には二つ効果があり、ひとつは”視覚的な変化の大きい舞台設定によって映画的な面白さを担保できる”という点と、もうひとつは作品が持つテーマ性を視覚的に強調してしまうという点。

毎回みごとなロケーション設定に唸らされてしまいます。

強烈なブラック・コメディ

スノーピアサー

(C)2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED

二つ目の特徴は、”強烈なブラック・コメディ”を唐突にぶち込んでくるという点です。

ポン・ジュノ作品では、しばしば強烈なブラック・コメディが挿入されます。それは、シリアスな展開の途中でもお構いなし。

「パラサイト~」を観た方ならわかると思いますが、あの緊迫感ある取っ組み合いの展開のあと唐突にぶち込まれる北朝鮮ギャグには、もう笑っていいんだか、悪いんだかといった感じ。

ポン・ジュノがハリウッドで製作した『スノーピアサー』という近未来SF作では、主人公が革命を目指して闘争を繰り広げていたと思ったら、突然アフリカ系の職人が握る寿司をみんなで喰うシーンになると。このシーンは、後々の伏線が込められていたりとするんですが、アクションに次ぐアクションでボルテージ上がっていたところに冷や水浴びせるような変なシーンです。

サスペンスやSFアクションとジャンル的な作劇の部分はしっかりとハイクオリティで描きながら、唐突に挿入されるブラックな笑いによって、作品全体はひとつのジャンルでは語れないポン・ジュノ的な作品になっていくという。

資本主義社会・体制への風刺

オクジャ

(C)2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED

ポン・ジュノ作品では、しばしば資本主義社会や体制側への風刺や皮肉が描かれます。

日本でも大ヒットしたモンスターパニック作『グエムル-漢江の怪物-』では、政府の研究機関の不法投棄が原因で誕生した怪物が人々に襲いかかるという、あらすじそのものが体制への風刺になっています。

それに加え、怪物駆除のため毒ガスを散布しようとする政府と環境保護を訴えるデモ隊の衝突が後半クローズアップされていくなど、常に体制とそれに反対する人々、さらにはその対立に巻き込まれていく人々が描かれます。

Netflixオリジナル作品『オクジャ/okja』には、現代の大量消費社会への皮肉がたっぷり込められていました。

これらは、監督の語ったように、”現代を舞台に描いた場合、格差や資本主義、体制へ言及することは避けられない前提なんだ”ということの現れなのだと思います。

ポン・ジュノ監督の長編映画リストをあらすじ解説【2020年版】

ここからは、ポン・ジュノ監督の長編7作品(2020現在)のあらすじを振り返っていきましょう。

先ほど挙げたポン・ジュノ作品ならではのポイントと、そこから最新作『パラサイト 半地下の家族』に通じるモチーフや設定を拾い上げながら、作品を辿っていきましょう。

ほえる犬は噛まない(2000)

吠える犬は噛まない

Amazonより

ポン・ジュノ監督の長編監督デビュー作品。

中流階級が暮らす何の変哲もないマンションで、あるとき住人の飼い犬が次々と失踪する事件が発生。マンションの管理会社で経理しているヒョンナムは、独自に飼い犬失踪事件の調査を始めた。一方、マンションの住人で大学講師のユンジュは、出産間近の妻に頭が上がらす煮え切らない日々を過ごしていた。二人の人物を中心にマンションでの飼い犬失踪事件をブラックな笑いで描く。

マンモスマンションの上下のローケーションを活かした作劇術、大学での出世に絡むコネと金、唐突に挟まれるぎょっとするようなブラックなコメディ描写と、今に通じるポン・ジュノらしさに溢れる一作。

主演のペ・ドゥナは、本作撮影時にほとんど演技素人だったが、かえってそれが素朴でどこか間の抜けたヒョンナムにピッタリです。彼女は本作での好演が評価されてその後は数々の作品に出演していくことになりました。

殺人の追憶(2003)

殺人の追憶

Amazonより

ポン・ジュノ長編監督二作目。本作は公開当時、韓国国内で記録的な大ヒットをし、当時の観客動員記録を更新した記念すべき作品。ポン・ジュノ監督も世界的に知られることなりました。1980年代の後半、韓国で実際におきた10人もの犠牲者をだした華城連続殺人事件を基にしたサスペンス。

1986年ソウル郊外の農村で、農業用の用水路から束縛された女性の遺体が発見される。地元の刑事パク・トゥマンと、ソウル市警のソ・テユンは捜査方針の違いからウマが合わずいがみ合いながらも、懸命な捜査を続けていく。やがて有力な容疑者にたどり着くのだが…

スリリングな描写の連続に息もつかせる間もない作品。猟奇的な事件を追い続けるうちに狂気に飲み込まれていく刑事たちの混乱と苦悩がまざまざと描かれる。軍事政権から民主政権へ移り変わろうとしていた混乱期の韓国を象徴するような事件を果敢に取り扱った意欲作。

ぜひラストのカットの意味を感じ取ってほしい一作。

グエムル-漢江の怪物-(2006)

グエムル 漢江の怪物

Amazonより

おそらく日本でポン・ジュノ監督が広く知られるようになったのはこの作品からでしょう。殺人の追憶の大ヒットで注目度の上がった監督が次に手掛けたのは、まさかのモンスター・パニック作。

ソウルを流れる漢江のほとり、ピクニックやジョギングなど多くの人で賑わっていた。そこに、突如謎の巨大な怪物が現れ、人々を次々と襲っていく。河川敷で売店を営むカンドゥは大混乱の中、最愛の娘のヒョンソを怪物に攫われてしまう。カンドゥは家族と共に娘を救うため、怪物と対決することに…

主演は、「殺人の追憶」に続いてソン・ガンホ。ソン・ガンホ演じるカンドゥの妹ナムジュは、ポン・ジュノ監督作は二度目のぺ・ドゥナ。

韓国の目覚ましい経済発展の象徴である漢江を舞台に、見事なローケション術を発揮している。カンドゥが対峙することになるのは、果たして怪物なのか、社会なのか。ポン・ジュノにかかれば、ジャンル映画的な題材も独特の作風に染め上げてしまう。

母なる証明(2009)

母なる証明

Amazonより

殺人の容疑をかけられた息子の無実を証明するために奔走する母親を主役にそえたサスペンス。

早くに夫の亡くし、女手一つで漢方屋を営む母親。知的障害をもつ一人息子トジュンと慎ましやかな生活を送っていた。ある日、女子高生が殺害される事件が起き、あろうことか一人息子のトジュンが容疑者として逮捕されてしまう。息子の無実を信じるヘジャは、無実を証明するために事件を調べ始めるが…

「国民の母」とも言われる大女優のキム・ヘジャを主演に迎えて、ウォン・ビンの兵役復帰一作目でもある。

あえて母親役に固有の名前を付けず、“母親そのもの”の描こうとしたことがわかる。母の愛とは何なのか、その是非は?観客へ強烈な問い掛けを放つ一作。

スノーピアサー(2013)

スノーピアサー

Amazonより

ポン・ジュノ監督が韓国・アメリカ・フランスの合作で製作した初の全編英語作品。フランスのグラフィックノベルが原作。

2031年、地球温暖化を解決するため全世界に散布された薬品によって、地上は雪と氷に覆われ、生物の生きられない極寒と地と化していた。生き残った数少ない人類は、一年で地球を一周する列車”スノーピアサー”に身を寄せていた。列車内では前方車両で暮らす富裕層が支配者として君臨し、後方車両に住む貧困層は奴隷のような労働を強いられていた。後方車両に暮らすカーティスはある日、奴隷仲間を束ねて富裕層への反逆計画を実行に移す。

格差社会を列車の車両に見立てて、社会構造をビジュアルでしっかりと見せつけてくる手腕は見事。

クリス・エヴァンス、ティルダ・スウィントン、ジョン・ハートなど豪華キャストが登場しているところも見どころ。ポン・ジュノ監督作品はもやはお馴染みのソン・ガンホも重要な役どころで出演している。

オクジャ/okja(2017)

Okja/オクジャ

(C)Netflix. All Rights Reserved.

ポン・ジュノ監督のハリウッド製作2作目、Netflix配信限定作品。

スーパーピッグのオクジャと少女ミジャは韓国の山村で自然とともに穏やかな日々を送っていた。ある日、スーパーピッグを食用として加工しようと計画しているミランド社によってオクジャが連れ去られてしまう。ミジャはオクジャを救うためにニューヨークへ向かう。さらには、動物保護団体の人間たちも絡んできて…

アメリカという大量消費社会への皮肉や、山の上(=ミジャの住むところ)と地上(=大都会)という地理的な対比、ハリウッド資本の作品ながらしっかりとポン・ジュノ監督らしさに溢れた一作。

パラサイト 半地下の家族(2019)

パラサイト

(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

アカデミー賞作品賞を獲得した記念すべき作品。主演のソン・ガンホはポン・ジュノ監督とは4度目のタッグ。

キム一家は4人全員が失業中。半地下にある住宅で貧しい生活を送っていた。とあるキッカケから長男のギウが裕福な丘の上の豪邸に住まうパク一家で家庭教師をすることに。妹のギジョンも美術の家庭教師としてパク一家に入り込むことに成功する。そして、キム一家は徐々にパク一家に”パラサイト”してくことになるのだが…

スリリングな映像と息もつかせぬ展開で観客を見たこともない景色に連れていってしまう。貧困・格差など社会問題を扱いながらも、強烈でエッジの利いた風刺の連続に思わず笑いがこみあげてくる。

ネタバレありのレビューはこちら▼

おわりに

タイトルとURLをコピーしました