どうも、こんにちは。
はりー(@hcinemadowntown)です。
今回は映画『窮鼠はチーズの夢を見る』をネタバレありで感想紹介していきます。
本作は「失恋ショコラティエ」、「脳内ポイズンベリー」など数々の作品が映像化されている漫画家の水城せとなさんの女性コミック誌『NIGHT Judy』に連載された「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」が原作となっています。しかも、それを「世界の中心で、愛をさけぶ」、「ナラタージュ」など繊細な恋愛映画を数多く手掛けてきた行定勲監督がメガホンを取るということで期待せざるを得ません。
主演に関ジャニ∞の大倉忠義、相手役に成田凌と旬な役者を迎えて、激しく揺れ動くふたりの恋を繊細に描いていきます。受け身な恋愛ばかりだった男ははじめて向き合えた人は後輩の男だった。新しく芽生える何かに、どう向き合っていくのか…
それでは、いきましょう。
本記事は本編のネタバレを含むので、ネタバレ苦手な方はご注意ください。
Contents
あらすじ
大伴恭一は優柔不断な性格で、昔から「自分を好きになってくれるオンナ」とばかり付き合っては別れを繰り返してきた。結婚した現在でもそれは変わらず、不倫を重ねていた。
ある日、恭一の前に7年ぶりに大学の後輩・今ヶ瀬歩が現れる。彼は実は恭一の妻・知佳子が雇った浮気調査員だった。不倫の証拠をもとに恭一を強請る今ヶ瀬。その条件は「カラダと引き換えに」という信じられないものだった。
当然拒絶する恭一だったが、7年間ずっと想い続けてきたという今ヶ瀬のペースに乗せられ、ふたりで暮らすことに。そして、次第にふたりの距離は縮まっていき…
キャスト
大伴恭一:大倉忠義
(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
本作の主人公。29歳のサラリーマン。既婚者。優柔不断で流されやすく、他人からの好意を断れないため、なし崩し的に不倫を繰り返している。学生時代のあだ名は「流され侍」。
今ヶ瀬歩:成田凌
(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
恭一の大学時代のサークルの後輩。学生時代に一目ぼれして以来ずっと片思いを続けていた。恭一の不倫調査をきっかけに7年ぶりの再会を果たす。
岡村たまき:吉村志織
(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
恭一の部下の女性社員。優しく接してくれる恭一にほのかな恋心を抱く。
夏生:さとうほなみ
(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
恭一の大学時代の同窓生。恭一とは一時期付き合っていた。サークルも同じで今ヶ瀬のことも知っており、今ヶ瀬が恭一に想いを寄せていたことを薄々感づいていた。
大伴知佳子:咲妃みゆ
(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
恭一の妻で、専業主婦。表面的には優しいけれど、自分に関心をもってくれない恭一の態度に冷め、恭一の不倫調査を依頼する。
予告編
『窮鼠はチーズの夢を見る』ネタバレあり感想
行定勲監督作品は、正直これまでの作品群でそこまで刺さる作品はなかったんですが、本作はすこぶる良かったですね。
最小限のセリフ運びと小道具を効果的に用いていて、とても静かで狂おしい、でもどこか美しいストーリーに仕上がっていました。
ちなみに、タイトルの「窮鼠はチーズは夢を見る」の意味は、窮鼠は追い詰められたネズミのことで、「窮鼠は猫を噛む」ということわざから来ています。追い詰められたネズミは天敵の猫にも反撃するから危ないという意味ですが、本作では窮鼠は”チーズは夢を見ます”。
”真に追い詰められたときに思い描くものが、その人の本当に望むものである”という意味だと解釈しました。
自分の想いを遂げることで相手を変えてしまうことへの葛藤
本作は成田凌さんの演じる今ヶ瀬がぐんばつに良かったですね。猫のようにすっと現れては懐に飛び込んでくるくせに、同時に気づいたらいなくなってしまいそうな儚さを纏っているような独特の空気感がありました。
はじめ今ヶ瀬は、恭一の不倫調査の証拠を持っているという圧倒的に有利な立場から関係を迫るわけです。そして、恭一は断り切れず唇を重ねてしまう。しばらくは、そういった危ない火遊びのような関係だったのが、恭一が知佳子にあっさりと捨てられ一人暮らしを始めた頃から徐々に関係性が変化していきます。
当然の如く恭一の一人暮らしの住まいに押し掛ける今ヶ瀬。はじめはいやいや付き合わされていた風の恭一も案外居心地が悪くなかったのかふたりは半同棲のような関係へと発展。
ついには今ヶ瀬に押し切られる形でふたりは肉体関係にまで至ります。
ちなみにここの濡れ場シーンはかなり大胆な描写でしたね。商業映画としてはかなりギリギリを攻めたなという印象。
この辺りから恭一と今ヶ瀬の力関係に変化が生じた気がします。
恭一は、ヘテロだった今までの価値観をはみ出して今ヶ瀬を受け入れたことで、ある種の清々しさを感じていたように思います。
一方で念願を遂げた今ヶ瀬は、受け入れてもらえた幸福と、恭一を引き込んでしまった後悔に苛まれているように感じました。
この幸せを抱きしめたいけれど、結局彼はヘテロで自分とはずっとは一緒にいられないのではないか…そんな不安を押し殺すように恭一に甘えていく姿が見てて苦しかった。
コレを今ヶ瀬はほとんど自分の嬉しい悲しい苦しいを言葉にはしないんですよね。でも、今ヶ瀬のちょっとした目線、口元の動き、瞳の潤みだけで感情の揺らぎをコチラに叩きつけて来ます!
この壊れそうなほど繊細な今ヶ瀬を作り上げた成田凌は凄まじい役者や。
そして、ついには恭一のもとを離れる選択をとるのでした。
セリフに頼らない描写がいい
本作は非常に静かで抑制の効いた画が多く、人物の心理や関係性をセリフに頼らない描写で上手く表現していました。
たばこ
今ヶ瀬は、かなりのヘビースモーカー。
今ヶ瀬が恭一を待っていたシーンで、チラリと灰皿を映す。そこには山盛りの吸い殻。
コレだけで今ヶ瀬がかなりの時間待っていたいたことを匂わせる演出が流石。
さらに印象的なのは、物語の中盤恭一が今ヶ瀬の咥えたばこを奪うシーン。
禁煙していたはずの恭一が今ヶ瀬のたばこを奪う仕草は、徐々に気持ちが傾いていっていることを示しています。
BLに詳しい友人いわく、咥えタバコを奪う展開は結構定番なんだとか。
ビール戦争:カールスバーグとシンハー
今ヶ瀬と夏生が恭一について張り合っているシーン。
この場の主導権は自分と言わんばかりにほいほいと話を進めて注文します。
夏生は「シンハー」、今ヶ瀬は「カールスバーグ」を注文。そこに、遅れて恭一の登場。
どちらを持ち帰るんだと迫る夏生。おたおたして、何を注文するのか決められない恭一。
結局、恭一が頼んだのは「カールスバーグ」でした。
恭一はどう見ても意識せずに選んでそうですが、今ヶ瀬と夏生は、今ヶ瀬が選ばれたんだと感じる。
こういう言葉で説明しない匂わせ演出は流石です。
今ヶ瀬の居場所だった小さな止まり木のような椅子
恭一の家にあった背が高くて座が小さい妙に座りにくそうな椅子の上が、今ヶ瀬の定位置でした。
今ヶ瀬はいつもその椅子に膝を抱えるように座っていました。
狭くはない家の中、ほんの小さな場所に身体を押し込めるように佇んでいたのは、結局今ヶ瀬の居場所はそんな小さな所しかなかったということの現れでしょう。
ラストの選択:恭一という男について
恭一という男の生き方について、触れておこうと思います。
彼は優柔不断と称されますが、私には自分の願望に自覚的でない男に映りました。自分に言い寄ってくる相手の願望に対して反射するように対応しているだけで、自分で”こうしたい”、”ああしたい”というのが極端に少ないんです。
だから、彼を愛して隣にあろうとする人たちは誰しも彼から本当に求められることがないと感じて、いずれそばにいることが辛くなっていくのでしょう。
そういう部分を指して恭一の妻である知佳子は「気持ち悪い」と言い放ったのでしょうね。
そんな彼も今ヶ瀬との生活の中で、はじめて自分の中に願望のようなものが芽生えるのを感じたんだと思います。
今ヶ瀬が去ったあと恭一はゲイが集うバーを訪れるシーン。彼は果たして今ヶ瀬に出会えることを期待したのか、それとも、自分の中に芽生えた願望の正体を確かめにいったのか。
そして最後、たまきとの婚約も解消し、今ヶ瀬が去った部屋で独り、彼のお気に入りの椅子に座って今ヶ瀬が再び現れることを待つという選択をします。初めて自分の中の願望を自覚して、誰かのことを信じる選択をした恭一は、どこか清々しい表情をしていました。
おわりに
今回は映画『窮鼠はチーズは夢を見る』の感想・考察でした。
痛く狂おしい恋愛を、美しい映像と巧みな描写で演出していて、自然と登場人物の心の葛藤が伝わってくる素晴らしい恋愛映画でした。
「好き同士が愛し合って結婚する」、「優しい恋人と幸せになる」だけではない多面的で多様な恋愛観を垣間見ることができる作品で、多くの方にオススメしたいです。
それでは、次の作品でお会いしましょう。