どうも、こんにちは。
はりー(@hcinemadowntown)です。
本記事は映画『糸』のネタバレあり感想になります。
中島みゆきさんの珠玉の名曲『糸』を原案にした映画です。人と人とのめぐり逢いを交差する糸になぞらえて歌った感動的な楽曲をモチーフに平成元年生まれのふたりが様々な出会いと奇跡を経てめぐり逢うという物語。
平成史の変遷と男女の人生を重ねるように物語を紡いでいく本作。菅田将暉、小松菜奈という人気者ふたりをW主演に迎えて、どのような作品になっているのでしょうか。
それでは、いきましょう。
Contents
あらすじ
平成元年生まれの高橋漣と園田葵。
映画『糸』公式サイトより
北海道で育った二人は13歳の時に出会い、初めての恋をする。
そんなある日、葵が突然姿を消した。
養父からの虐待に耐えかねて、町から逃げ出したのだった。
真相を知った漣は、必死の思いで葵を探し出し、駆け落ちを決行する。
しかし幼い二人の逃避行は行く当てもなく、すぐに警察に保護されてしまう。
その後、葵は、母親に連れられて北海道から移ることになった。
漣は葵を見送ることすらできないまま、二人は遠く引き離された…。
それから8年後。
地元のチーズ工房で働いていた漣は、友人の結婚式に訪れた東京で、葵との再会を果たす。
北海道で生きていくことを決意した漣と、世界中を飛び回って自分を試したい葵。
もうすでに二人は、それぞれ別の人生を歩み始めていたのだった。
そして10年後、平成最後の年となる2019年。
運命は、もう一度だけ、二人をめぐり逢わせようとしていた…
キャスト
高橋漣:菅田将暉
(C)2020映画『糸』製作委員会
本作の主人公。北海道の上富良野で生まれ育ち、13歳のころ、美瑛の花火大会で出会った葵に一目ぼれする。その後、美瑛のチーズ工房に勤めている。
園田葵:小松菜奈
(C)2020映画『糸』製作委員会
本作のもうひとりの主人公。美瑛の花火大会で漣と運命的に出会うが、家庭の事情で東京へ行くことに。漣とは離れ離れに。家族に頼らず自分だけで生きていこうともがくが…。
桐野香:榮倉奈々
(C)2020映画『糸』製作委員会
漣の勤めるチーズ工房の先輩。やがて漣とは恋人関係になる。
水島大介:斎藤工
(C)2020映画『糸』製作委員会
東京にでた葵と出会い恋愛関係になるファンド・マネージャーの社長。
高木玲子:山本美月
(C)2020映画『糸』製作委員会
葵のキャバクラ時代の同僚で親友。ネイリスト。シンガポールで新しい仕事を始めるときに葵を誘う。
村田節子:倍賞千恵子
(C)2020映画『糸』製作委員会
北海道時代、葵の近所に住んでいたおばあさん。時々ごはんを食べさせてもらっていた。地域の子どものために子ども食堂を開いている。
竹原直樹:成田凌
(C)2020映画『糸』製作委員会
漣の幼馴染で親友。漣のよき理解者。恋人を追いかけて東京で就職した。
山田利子:二階堂ふみ
竹原の職場の後輩。竹原の二人目の妻になる。
映画『糸』予告編
映画『糸』ネタバレあり感想
小松菜奈さんが超良かった!!!!
恥ずかしながら彼女の出演作は今回が初鑑賞だったのですが、こんなにも雰囲気があって魅力的な女優さんだったとは!
主演ふたりの演技が本当に素晴らしかった!
(C)2020映画『糸』製作委員会
W主演の菅田将暉さんと小松菜奈さんの演技が本作最大の魅力といっても過言ではありません。
13歳のころから30歳までの人生を120分弱で描くので、どうしても各年代の描写はコンパクトになってしまうのですが、主演ふたりの伝達力が素晴らしく、漣と葵の感情がビシバシと伝わってきました。
菅田将暉さんの演技でとくに素晴らしかった場面は、函館空港のシーン。沖縄へ帰る葵にガラス越しに受話器で話しかける漣。美瑛での人生を歩んでいくことに腹を決めて、その決意を葵に告げる表情が素晴らしかった。その他のシーンでも、言葉少なげな漣の内に秘めた葛藤をよく表現していてさすがの貫禄でした。
(C)2020映画『糸』製作委員会
一方で小松奈菜さんの特筆する場面は、シンガポールでの一幕。海外で事業が親友の裏切りで立ち行かなくなり途方にくれ、街をとぼとぼと歩いていく。ふと見つけた日本食の屋台でカツどんを乱暴に頬張る。そこで、ふとラジオから中島みゆきの「糸」が流れてくる。
そこでの小松菜奈さんの表情がなんとも言えず惹きつけられました。数々の困難に耐えて耐えて、それでも前を向いて進んでいった挙句の挫折。溢れそうになる感情をギリギリのところでこらえている姿が目を離せなくなる魅力にあふれていました。
さらに、ラスト直前子どものころに心の安らぐ場所だった近所のおばちゃん(節子)のごはんを食べたシーン。これまでこらえていたものがついに溢れて止まらない。はらはらと涙が零れる姿がなんとも美しい。
とにかく、主演のおふたりが素晴らしいパフォーマンスを発揮した作品でした。
平成史としての本作
本作は、平成元年生まれのふたりが、平成30年の人生の歩みを経て、最終的に令和へ時代が移り変わるころに巡り合う物語です。
そこには平成という時代を反映した平成史という側面もありました。
思えば、平成は混乱と災害の時代でした。バブルの崩壊とともに平成が幕を開け、アメリカ同時多発テロ、リーマンショックに続く大不況、東日本大震災と、これまで経験したことのないような事態が数多く起こりました。
漣と葵との人生にもこれらの事態は直接的・間接的に影響を与えていきます。
一時期、葵と男女の関係になった水島は、リーマンショックのあおりを受けて事業を畳むことになりました。漣の親友・竹原の妻は実家に帰省中、東日本大震災に巻き込まれ、精神的に病んでしまいました。
これらの未曽有の出来事に象徴されるように、平成という時代は「これまでの当たり前が崩壊していった時代」と言えるかもしれません。
いずれの出来事もいままでの信じていた生活・発展が一瞬にして崩れ去ってしまうような大きな事態。いままでの「当たり前」は当たり前ではなく、いずれ失われるものかもしれない。なにかの希望を持つことが難しくなっていった時代に思えます。
幼いころのふたりは互いに一目惚れし、運命の人だと思っていたに違いありません。しかし、かれらの仲は幼いふたりではどうしようもない事情によって引き裂かれてしまいます。そのとき、互いを運命の人と信じていた気持ちは打ち砕かれてしまったように感じられました。
その後、漣はどこか自分は大成出来ないのだと達観したように地元で細々と生きていく人生をあきらめ気味に受け入れていましたし、葵も人を信じ切るような振る舞いは見せず生きていました。
「当たり前」が崩壊した平成という時代と、「運命の人」を手放してしまった漣と葵の物語が重なりあった本作。
だからこそ、時代が移り変わるときに人と人の想い・縁が折り重なってふたりが再び運命の人とめぐり逢うという物語には希望を感じました。
令和という新しい時代が、再び何かを信じることができる時代になることを望みたいですね。
ちょっと気になる点も…名曲を最後まで聴かせておくれよ
役者陣の演技がとても良かったのですが、ちょっと映画的には気になる点がちらほら。
元ネタなのに『糸』の使い方が上手じゃない
本作は中島みゆきの名曲『糸』を題材に創作された映画です。当然、盛り上がりどころで『糸』がBGMとして使用されるのですが、なんとも中途半端なところでぶつ切り。そのまま別のシーンに切り替わります。
ここは、もう少し配慮があっても良かったように思いましたね。途中で切るにしても徐々にフェードアウトさせるとかやりようはあったよなぁ、なんて思ってしまいました。
むしろタイトル『ファイト!』にした方が良かった?
(C)2020映画『糸』製作委員会
実は『糸』以外に中島みゆきの曲が印象的に使用されるシーンがあります。
漣が婚約者の香と、竹原の再婚を考えるの莉子を紹介されるシーン。早めの再婚に自信なさげな竹原の背中を押すように香が『ファイト!』を歌いました。
そして、東日本大震災を経て再び思い出のお店で集まった漣と竹原・利子。ここでは、震災を体験して精神的にトラウマをおってしまった利子とそれを支える自分を鼓舞するように竹原が『ファイト!』を歌います。
ここでは、大きな出来事を経て変化した面々の様子と、違う形で力を与えてくれる『ファイト!』が効果的でとても良いシーンでした。
『ファイト!』に比べると『糸』は作品のテーマではあるものの楽曲として効果的に取り入れられてはいなかったのがちょっと残念ポイントでした。
おわりに
今回は映画『糸』の感想をネタバレありで紹介しました。
奇しくも再び流行り病の広がりによって、人と人の縁が途切れてしまった昨今、この作品のような人とのつながりのありがたみが身に沁みます。
みなが自由に語らい絆を結べるときが戻ってくるのを待ちわびています。
それでは、また次の作品でお会いしましょう。