どうも、こんにちは。ハリー(@hcinemadowntown)です。
今回は映画『1917 命をかけた伝令』の感想・考察の記事です。
ゴールデングローブ賞では作品賞を獲得しており、アカデミー賞作品賞の大本命と目されていましたが、惜しくも作品賞は『パラサイト 半地下の家族』に譲る形になりましたね。
しかし、類まれなる映像表現は高く評価されて、アカデミー賞では「撮影賞」「録音賞」「視覚効果賞」の3部門でオスカーを手にしました。
そんな、”全編ワンカット”という謳い文句で大々的に宣伝していますが、正確には全編ワンカット”風”。
長回しのワンショットを巧みな編集でつなぎ合わせて、あたかも全てのシーンが繋がっているかのような映像を作り上げています。
映像面の技術が注目されがちな本作ですが、映像と物語的な部分の両面から本作について述べてたいと思います。
本記事は本編のネタバレを含むので、ネタバレ苦手な方はご注意ください。
それでは、いきましょう。
Contents
あらすじ
第一次世界大戦真っ只中の1917年のある朝、若きイギリス人兵士のスコフィールドとブレイクにひとつの重要な任務が命じられる。それは一触即発の最前線にいる1600人の味方に、明朝までに作戦中止の命令を届けること。
https://1917-movie.jp/introduction/
進行する先には罠が張り巡らされており、さらに1600人の中にはブレイクの兄も配属されていたのだ。
戦場を駆け抜け、この伝令が間に合わなければ、兄を含めた味方兵士全員が命を落とし、イギリスは戦いに敗北することになる―
刻々とタイムリミットが迫る中、2人の危険かつ困難なミッションが始まる・・・。
スタッフ・キャスト
監督サム・メンデスは映画監督デビュー作『アメリカン・ビューティー』でいきなりアカデミー賞作品賞、監督賞を含む5部門で受賞した強者。
『007』シリーズ50周年の記念作品『007 スカイフォール』でも監督を務め、イギリスでは当時の歴代興行収入1位を獲得するなど大ヒットを収めました。続く、『007 スペクター』でも監督を務めています。
脚本も務めたサム・メンデス監督ですが、本作を製作しようと思ったキッカケをインタビューで語っています。
舞台は第一次大戦のヨーロッパ西部戦線です。なんと、監督の祖父は実際に西部戦線に派兵され伝令役をになっていたそう。
第一世界大戦の終結が1919年6月(ヴェルサイユ条約締結)ですから、もう次の世代では直接体験談を聞いた世代はいなくなってしまいます。今後、WW1の戦争映画は製作が難しくなっていくでしょうね。
本作の驚異的な映像表現を担ったのは巨匠ロジャー・ディーキンス。本作で『ブレードランナー 2049』に続いて2度目のアカデミー賞撮影賞を受賞しました。
全編ワンカット”風”の映像は映像が単調になってしまいがちという弱点を抱えていますが、見事なカメラワークと光と闇を上手く織り交ぜた映像によって、芸術的なシーンの数々を作り出しています。
衣装には『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』でアカデミー賞を獲得した ジャクリーン・デュラン が名を連ねており、当時の軍服を徹底的に再現し、本作の戦場をよりリアルなものにしてくれています。
また、編集のリー・スミスは本作の影の立役者とも言っていいでしょう。全編ワンカット風”の映像を作り上げるためには相当の苦労があったに違いありません。
本作の主人公であり、若き伝令のひとりを務めたのはジョージ・マッケイ。
『はじまりの旅』や『マローボーン家の掟』、『ずっとあなたを待っていた』などで主要キャストを演じました。
もうひとりの伝令役には、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のトメン・バラシオンを演じて注目された ディーン=チャールズ・チャップマン 。
ゲースロではどこか頼りない役柄でしたが、本作では勇敢な兵士を演じていますね。
脇を固める俳優陣が非常に豪華!ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングと英国が誇る名俳優たちが上官を演じます。
映画『1917 命をかけた伝令』感想・考察(ネタバレあり)
異次元の映像美:主人公たちとともに戦場を走る
(C)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
本作が全編ワンカット風”の映像を用いたのは観客に「兵士一人ひとりの息遣いまでリアルに体感してほしかったから<長回し・ワンカット>という撮影方法を採用した」と監督がインタビューで語っています。
あくまでも、描きたいものがあったからこの高難度で特殊な撮影方法を選んだということのようですね。
観客に戦争を体感させることを重視して特殊な映像手法を用いた作品としては、クリストファー・ノーラン監督の作品『ダンケルク』が挙げられます。
ダンケルク(字幕版)
こちらは、陸、海、空の異なるフィールドを異なる時間軸で展開していくことで、戦場をリアルに体感させようという試みでした。 こちらでも編集のリー・スミスが手腕を発揮しています。
本作が映像面から優れていると感じた点は3つあります。
- 主人公たちの主観視点が中心で、常に緊張感が持続する点
- 次々にフィールドが変化して、映像的な飽きが来ない
- 光と影の対比を用いた芸術的なカット
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本作はカメラが主人公2人に常に寄り添い、観客があたかも3人目の同行者かのように感じられる作りになっています。
第一次世界大戦という壮大な戦争の真っただ中にあって、我々観客に提示される情報は常に主人公たちが見聞きしたことのみ。
ふたりが突き進むのは、ついこの間まで戦場だったエリア。どこから銃弾が飛んでくるか分からない、敵の罠が仕掛けられているかもしれない。
ふたりが警戒し、慎重に歩みを進める姿に、おのずと我々も彼らと同じように曲がり角、暗闇を警戒するようになります。
(C)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
次に、フィールドが次々に変化する点ですが、これよってワンショット撮影の弱点である”映像が単調になりがち”を見事にクリアしていました。
主人公たちが移動するエリアは、「塹壕」、「沼地」、「草原」、「地下基地」、「敵兵に占領された街」、「川」と目まぐるしく変化していきます。
敵の残した罠や危険地帯を踏破していく様子は、さながらダンジョンを順々にクリアしていくRPGゲームの様。
映像的に飽きが来ず、フィールドが変化していくことで、次に何が待ち構えているのかという緊張感とワクワク感を持続させながら鑑賞することが出来ました。
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作中、スコフィールドは足を踏みいれた街で生き残っていたドイツ兵に襲われ、気絶してしまいます。
登場人物が気絶している間は観客も知覚できない時間ということで大胆にも時間をスキップ。これにより、舞台は夜に移行します。
ドイツ軍に攻め込まれ、占領されてしまった街エクースト。遠くで照明弾が打たれ、廃墟と化した街並みと敵兵の姿が怪しく浮かび上がる。
敵兵との直接的な攻防が続くシーンであり、最も緊張感のある場面でありながら、あまりにも美しい映像に息を吞むしかありませんでした。
仲間を救った英雄は戦争の一コマにすぎない
(C)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
ここからは作品の物語的な側面について触れていきます。
仲間1600人の命を助けるという英雄的な任務を行ったスコフィールド。
しかし、作中で彼は殊更に称賛を浴びることはなく、ただの”仕事おつかれ”の労い程度。
ましてや、伝令を届けられたマッケンジー大佐からは「最後の一人になるまで戦争は終わらない」なんていわれる始末。
第一次世界大戦という巨大な戦争にあって、彼の行動は数ある戦場での功績の末席を埋める程度のこと。
別に戦争自体を止めることをしたわけでもなく、敵の大軍を打ち破ったわけでもなく、伝令係として通常任務を遂行したにしか過ぎない。
このあたりの描写は巨大な戦争において、一兵卒の働きはとても”ちっぽけなもの”であるということが強調された描写だと感じました。
戦場に故郷を求める物語
(C)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
本作の主人公2人、スコフィールドとブレイクは道中、しばしば故郷や家族への思いを口にします。
危険な任務を引き受けたのも、伝令を伝える先の部隊にブレイクの兄が所属しているからということが大きな動機になっています。
海を渡り、故郷から遠く離れた戦場にいるからこそ、故郷への思いを強くするのです。
中盤、2人は墜落したドイツの戦闘機から操縦士を助け出します。
しかし、皮肉にもブレイクは助け出したドイツ兵士に腹を刺され命を落としてしまします。家族の写真を胸に抱きながら。
ここで、ブレイクの故郷への郷愁の念は終わってしまうのかというと、そうではありません。
思いは遺品という形でスコフィールドが受け取り、前線にいるブレイクの兄へ届けられることになります。
その後、スコフィールドは前線近くの森で兵士の労いのために歌を歌っている一団に遭遇します。故郷を思う物悲しい歌声に兵士たちはそれぞれが懐かしさや寂しさを浮かべていました。
故郷を思いながら戦場を駆けるスコフィールドも特別な人間ではなく、同じく故郷や大切な人を思い銃を手に取った多くの若者の一人に過ぎないのだと感じられるシーンです。
ついに、伝令を届け、戦闘を止めることに成功したスコフィールド。ブレイクの兄に彼の遺品を手渡すことが出来、スコフィールドはしばしの休息を得ます。
丘にある一本の大きな木にもたれかかり、家族の写真を眺める彼は、あの瞬間、”彼の故郷”にたどり着くことが出来たのでしょう。
最後に木陰で眠りにつくシーンは冒頭のシーンのリフレインであり、作品全体が円環構造になっている演出です。スコフィールドは危険な任務を達成し、一時の平穏を得ましたが、戦争が続くかぎり、本当の安らぎを得ることはないでしょう。
最後のシーンは美しくも、そんな戦争の虚しさ、不毛さを予感させるようなラストでした。
おわりに
本作はプロットとしては”2人の兵士がA地点からB地点へ伝令を届ける”という非常にシンプルなものですが、
映画を観ていることすら忘れ、主人公たちとともに戦場を駆けている体験こそがこの映画の一番の魅力。
ネタバレありの本記事を読まれた方でも楽しめる作品です。
あの映像美は劇場の大きなスクリーンと音響で観てこそ感動が最大になると思います。
ぜひとも劇場に足を運んで驚異の映像の目撃者に加わって欲しい !
それでは、また次の作品でお会いしましょう。