どうも、こんにちは。ハリーです。
今回は、映画『ジョジョ・ラビット』の感想・考察を紹介します。
アカデミー賞6部門ノミネート!
作品賞にもノミネートされていて話題性抜群ですね。
日本公開前からトロント国際映画祭では最高賞である観客賞を受賞し、ゴールデングローブ賞でもノミネートされるなど、今年の賞レースの注目株です。
子どもの視点から第二次世界大戦やナチスを描くという試みの本作。
悲惨な戦争を生き抜く壮絶な物語になるのかと思いきや、素朴な愛と勇気の大切さを教えてくれるハートフルな作品でした。
本記事は本編のネタバレを含むので、ネタバレ苦手な方はご注意ください。
それでは、いきましょう。
Contents
あらすじ
物語の舞台は、第二次世界大戦のドイツ。10歳の少年ジョジョは、ナチスの青少年集団ヒトラー・ユーゲントに入団して立派なドイツ兵士になろうと奮闘していた。
臆病なジョジョは、訓練もなかなか思うようにいかず、いつも逃げ回っていた。
そんなある日、殺しの訓練だと言って、みんなの前で、ウサギを殺すように命じられます。
子どもたちの”殺せ”コールの中、ウサギを哀れに思ったジョジョは、ウサギを逃がそうとします。
皆に臆病者のウサギと同じだと、「ジョジョ・ラビット」というあだ名をつけられてしまいます。
ジョジョは”空想上の友達”アドルフから励まされ、みんなを見返して勇敢な兵士であることを証明しようとしますが、勇んで放り投げた手りゅう弾は気に合ったてジョジョの足元に落ちて爆発。
大けがを負ったジョジョは、ヒトラー・ユーゲントを脱退するはめに。
母ロージーとの二人暮らしに戻ったジョジョですが、ある日母の留守中、屋根裏から奇妙な物音を耳にするのです。
物音の出どころを探していると、屋根裏に秘密の部屋が!
そこにはユダヤ人の少女エルサが匿われていたのでした・・・
スタッフ・キャスト
監督はマーベル『マイティー・ソー バトルロイヤル』を大ヒットさせたタイカ・ワイティティ。『マイティ・ソー』シリーズ4作目を監督することも決定しており、乗りに乗っています。
マイティ・ソー バトルロイヤル (字幕版)
コメディ演出に非常に優れた監督で、これまで硬派路線だった『マイティ・ソー』シリーズに笑いの要素を取り入れ興行収入の面でも批評の面でも大成功を収め、これからのさらなる活躍が期待される人です。
本作はクリスティン・ルーデンンスの著作『Caging Skies』を原作としています。世界22か国で翻訳され世界的ベストセラーになっています。
残念ながら日本語版は出版されていないようです。
アカデミー賞美術賞にノミネートされています。カラフルでビビットな配色と、当時の戦時下のドイツの街並みや景色が見事にマッチしていて、非常に高い評価を受けています。
『ホビット 思いがけない冒険』で恐ろしくも壮大で美しい中つ国を作り上げたラ・ヴィンセントの手腕でしょう。
衣装の マイエス・C・ルベオ もアカデミー賞衣装デザインでノミネートされています。
特にジョジョの母ロージーの衣装は、モダンでカラフル。戦時中でも、明るく自由を愛する彼女の生き様が服装からありありと伝わってきました。
音楽の マイケル・ジアッチーノ はディスニーピクサー作品やMCU作品にひっぱりだこの売れっ子作家。
戦争映画かつコメディ映画という振り幅の大きい本作において、見事に場面にマッチした劇伴を添えてくれいます。
主人公のジョジョ・ベッツラー役には、本作が映画初出演となる ローマン・グリフィン・デイビス 。
初出演とは思えない繊細で見事な演技を披露してくれています。彼のキュートなルックスは唯一無二ですね。
監督タイカ・ワイティティ 自らがジョジョの”空想上の友人”アドルフを演じます。
ちょび髭にちょっぴり腹の出たいで立ちで、あのヒトラー独特のまくしたてるかのような演説口調でジョジョを鼓舞しています。
監督は自らの作品に出演するタイプの人で、自身の監督作『BOY』『シェアハウス・ウィズ・ヴァンバイア』でも主要人物を演じています。
凄みのあるヒトラー・ユーゲントに勤めるミス・ラームを演じるのはレベル・ウィルソン。
今年はほかに『キャッツ』のぐうたらおばさん猫ジェニエドッツ役で出演予定です。
ヒトラー・ユーゲントのやさぐれ教官 クレンツェンドルフ大尉を演じるのは サム・ロックウェル 。
どうせドイツは負けると本音を吐いてしまうあたりが、いいキャラクター出ています。
大尉の部下フィンケルを演じるのはアルフィー・アレン。
彼の演じる気弱な若者の演技が妙にツボなんですよね
『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズのシオン・グレイジョイ役で一躍有名になりました。
その他には『ジョン・ウィック』『ザ・プレデター』などに出演しています。
中でも好演が光ったのは、ジョジョの母親ロージーを演じたスカーレット・ヨハンソンでしょうか。
彼女は本作の演技でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされています。
ジョジョを温かい優しさで包み込み、自由と信念を持った女性を生き生きと演じています。
『マリッジ・ストーリー』と本作のアカデミー賞作品賞ノミネート2作で母親役を演じているのも面白いですね。
詳しい情報は公式サイトでチェックしてみてください。
5/20にデジタル配信開始しました!この機会にぜひ!
ジョジョ・ラビット (字幕版)
映画『ジョジョ・ラビット』感想 ネタバレあり
この悲惨な戦争は10歳の少年にどう映るのか
(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation & TSG Entertainment Finance LLC
本作『ジョジョ・ラビット』を特徴的な戦争映画たら占めているのは10歳の少年を主人公に据えた点がストーリテリングだけではなく、映像そのものでも視覚的に提示されている点だと思います。
冒頭、ジョジョの自己紹介から映画はスタートします。鏡の前に立つジョジョと同じ目線のカメラ。
イマジナリーフレンドのアドルフは今日からヒトラー・ユーゲントに入団するジョジョにナチス兵の精神を説きます。ジョジョの視点からはアドルフは腰から下しか映りません。
さらに、ジョジョの見つめる先以外のものはピントがぼけたようなカットが挿入されます。
この、低い目線、狭いピントというのが観客にジョジョの見ることのできる世界は小さく狭いのだということを感覚的に理解させます。
子どもの視点であり、ヒトラーが空想の友人として登場することからわかるように、本作は戦争をどこか寓話的なファンタジー的に描写しています。
ジョジョの入団するヒトラー・ユーゲントでは、現代に住まう我々からすると、そんなまさかと言う教えを子どもたちに説いています。
我々アーリア人は他の人種よりも優れていて、特にユダヤ人は下等で劣悪なんだと。
ユダヤ人は角が生えていて、蛇のような舌をもち、全身が鱗で覆われているんだと。
コレは映画故の誇張でもなんでもなく、当時のナチス政権下のドイツで実際に行われていたことでした。
年端も行かない青少年たちに歪んだプロパガンダを刷り込んでいくことのおぞましさは想像を絶します。
ただ、本作ではそんな恐ろしい一連のプロパガンダ的なシーンをひたすらにギャグシーンとして滑稽に描いていきます。
こんなものは愚かしいものだと言わんばかりに。
特にことさら滑稽に描かれるのは監督自らが演じたアドルフ。
徹底的にコケにしてコメディに演じる様子は、彼が象徴する差別や偏見そのものへの監督の強い反対のメッセージに感じることが出来ました。
近年ヒトラーを風刺的にあつかった作品に『帰ってきたヒトラー』があります。ヒトラーが現代にタイムスリップして、そっくりさんとして再び自分の思想を広げていこうという作品です。
作中ヒトラー役の オリヴァー・マスッチ が実際に街に出て道行く人にナチス・ヒトラーについてインタビューをするシーンがあります。
驚くことに、ヒトラーは忌避されるどころかテレビスターの如くにはやし立てられツーショットをせがむ人も。中には今のドイツ政治への不満を吐いて、“だれか大胆な政治リーダーが現れないか”と嘆く人さえいました。
もちろん、マスッチの演じたヒトラーを恐がり割ける人や不謹慎だと怒る人もいたが、彼の行った歴史上最も残虐な行為の数々を思えば、ずいぶんと歓迎されているように映りました。
帰ってきたヒトラー(字幕版)
人間は余裕がなくなるとつい、現状を打破してくれそうな極端な考えに支配されてしまいます。
しっかりと眼を見開いて物事を見極めていかないと、靴ひもも結べない子どものジョジョと同じになってしまうのだと思います。
大人の優しさ
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幼く盲目的にナチスの教えを信じているジョジョを温かく見守っているのは、母ロージー。
ジョジョのヒトラー・ユーゲントで働きたいというと、教官の頬をひっぱたいて「仕事をあげて」と啖呵を切る。ジョジョが戦場に行って戦いたいという願いも頭ごなしに否定はしません。
ジョジョとロージーは二人暮らしで父親は一緒に住んではいません。
家を空けることも多く、ジョジョは多くの時間を独りで過ごしていました。
10歳の少年にとって、ある意味では戦争以上に身近で辛い状況をロージーはファンタジーで温かく包むのです。
ジョジョの前で父親と母の二役を演じておどけてみせ、ふたりはゆっくりと体を揺らして踊るのでした。
この親子のダンスシーンはグッと胸に迫るものがありましたね。
シングルマザーのロージーの造形は同じくシングルマザーの母に育てられた監督自身の経験を基にしたものかもしれません。
しかし、ジョジョの信じるファンタジーを優しく肯定してあげるロージーが唯一真正面から見なさいとジョジョに隠さなかった場面があります。
それは、広場で見せしめの絞首刑に処されたドイツ人たち姿でした。彼らは、ナチスの思想に反対したり、ユダヤ人に好意的だったという̚かどで処罰された人たちです。
ファンタジーな世界の中でも戦争によって失われる命を見て見ぬふりはしてはいけないというロージーの強い意志が現れたシーンでした。
ファンタジーが終わるとき少年の愛と勇気が希望をつくる
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しかし、ジョジョのファンタジーもやがて終わりを告げます。
屋根裏に潜んでいたユダヤ人のエルサに対して、尋問だと言わんばかりにあれこれ質問していくジョジョ。
はじめはお互い警戒し罵りあう仲でしたが、エルサと言葉を交わすうち、ジョジョはエルサが笑い、泣き、悲しみ、恋をする、自分たちと何ら変わらない普通の人間であるということを知ります。
ナチスのプロパガンダなどという悪質なファンタジーよりも素朴な隣人愛こそ大事なんだという「気づき」がジョジョを成長させ、幼い子ども時代から一歩踏み出させます。
一方、ジョジョの成長にしたがって、作品全体は不穏な気配が広がり、徐々に街からは色彩が失われていきます。
そんな中、衝撃的な出来事が起こります。
母ロージーの死です。
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ナチスの思想に反する活動をしていた様子のロージーは見せしめに広場で絞首刑に処されてしまいます。
吊るされる母を見つけて、しがみ付き涙するジョジョ。そんな中でも観客からはロージーの下半身しか見えません。
印象的な靴で誰か分かってしまうこと、脚に抱きつくことしかできないジョジョの無力さを一発でわからせる凄まじいカットです。
一番の庇護者である母を失ったジョジョは、否が応でも現実と向き合わざるをえません。
そんな中、ジョジョは大事の守っていた「ウサギ」をケージから出す決断をします。
この「ウサギ」は屋根裏のエルサのことでもあり、ジョジョ自身の勇気のこととも言えます。
エルサを家から連れ出すため、エルサの亡き恋人ネイサンからの手紙だと偽って脱出計画を提案します。
これは、いままで盲目的にファンタジーを信じていたジョジョが、愛するだれかを守るためにファンタジーを作るという感動的な逆転劇です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
映画『ジョジョ・ラビット』、えぐいほどの風刺に彩られた作品でありながら、観客に投げかけるメッセージは驚くほど真っすぐで温かい。
鑑賞後、こんなにも胸が熱くなる映画に出会えたことがホントに幸せです。
笑って、泣けて、最後は腹に蝶が舞う本作はぜひ劇場で!
ジョジョ・ラビット (オリジナル・サウンドトラック)
5/20デジタル配信開始しました!
ジョジョ・ラビット (字幕版)