どうも、こんにちは。
ハリー(@hcinemadowntown)です。
今回は映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』の感想・考察の紹介です。
オリジナル脚本のミステリでアカデミー賞にノミネートされた注目作品です。
本記事は本編のネタバレを含むので、ネタバレ苦手な方はご注意ください。
中盤の展開についてはネタバレして言及していますが、今回はミステリーということで真犯人については回避しています。
それでは、いきましょう。
Contents
あらすじ
NYの郊外、出版社の創業者で巨万の富をもつ ハーラン・スロンビー の85歳の誕生パーティーが開かれていた。
親族が大勢あつまり、パーティーは盛り上がったのだが、翌朝ハーランが遺体で発見される。
匿名の人物から依頼を受けた名探偵 ブノワ・ブランは、 この事件の調査を行うことに。
容疑者となったのは、誕生パーティーに集まった親族や看護師、家政婦やら屋敷にいた全員。
調査を進めるにつれて、家族それぞれが嘘を吐いていたり、父との確執があったりと一筋縄ではいかない様子。
名探偵ブランは家族の秘められた謎を解き明かし、事件の真相に迫っていく・・・
スタッフ・キャスト
監督のライアン・ジョンソンは前監督作であるスターウォーズシリーズ8作目『スターウォーズ 最後のジェダイ』で、シリーズの伝統に巨大な一石を投じ、賛否渦巻く話題の中心になった人物です。
監督が世間に注目されたのは、本作と同様に監督・脚本を担当した近未来SF『LOOPER/ルーパー』を手掛けたときでした。
30年後の未来からきた自分の暗殺を命じられた主人公の物語。非常に巧みな脚本で絶賛され、 2012年の放送映画批評家協会賞SF/ホラー映画賞を受賞 しています。
本作で脚本をつとめ、アガサ・クリスティーばりの本格ミステリーを、ユーモアを織り交ぜつつ最後まで飽きさせないストーリーを構築しています。
撮影の スティーヴ・イェドリン は、ライアン・ジョンソンと古くからタッグを組んでおり、 『スターウォーズ 最後のジェダイ』 、 『LOOPER/ルーパー』 でも撮影を務めています。
クラシカルで魅力的な刃の館を創り出してくれた美術の デヴィッド・クランク 。近年のライアン・ジョンソン作品での起用が多い、編集のボブ・ダクセイなどが脇を固めます。
名探偵 ブノワ・ブラン を演じるのは ダニエル・クレイグです。
『007』6代目ジェームス・ボンドでお馴染みですが、今回は切れ者の名探偵かと思いきや肝心なところで間の抜けたところもある愛される探偵役を好演しています。
みんな大好き“キャップ”ことキャプテン・アメリカで有名なクリス・エヴァンスは、放蕩三昧で一族からも見下されている長女家族の息子ランサムを演じています。
F○○KだのSH○Tだの、口汚いセリフ連呼で、なんとも憎たらしいボンボン息子ぶり。
看護師のマルタを演じるのは アナ・デ・アルマス です。
『ブレード・ランナー2049』でブレイクした彼女。20年公開の『007/ ノー・タイム・トゥ・ダイ』でも ダニエル・クレイグ との共演が決まっています。
その他俳優陣も曲者揃い。
『トゥルーライズ』『ハロウィン』のジェミー・リー・カーティス、『 ヘレディタリー/継承』のトニ・コレット、『IT/イット “それ”が見えたら終わり。』で主人公ビルを演じたジェイデン・マーテル など豪華俳優陣が集結しました。
詳しい情報は公式サイトでチェックしてみてください。
スロンビー一族の家系図
今回は登場人物が非常に多く、4世代が登場するのでスロンビー家を家系図で把握しておくとすんなり映画を楽しめます。
Motion Picture Artwork (C) 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
ニール・スロンビーは作中では既に故人です。
【ネタバレあり】映画『ナイブズ・アウト』感想・考察
古典的ミステリーの伝統
Motion Picture Artwork (C) 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
本作は監督ライアン・ジョンソンが10代のころから大ファンだというアガサ・クリスティーに捧げた作品といえます。
古典ミステリーへの愛にあふれた舞台設定。
怪しげな洋館、富豪の謎の死、遺産争いに興じる訳ありの家族、少し間の抜けた警察、名探偵の登場など枚挙に暇がありません。
作中名探偵のブノワが南部訛りの英語を話すと言及されているのは、アガサ・クリスティーの生み出した名探偵エルキュール・ポワロのオマージュでしょう。(ポワロはベルギー南部出身でフランス語訛りの英語を話す)
医療関係者が重要人物として登場する点は、ポアロシリーズの名作『アクロイド殺し』を彷彿とさせます。
古典ミステリーの定番の展開として、探偵が登場人物に順々に事情聴取をするシーンがあります。本作もその定番の展開をなぞりますが、その見せ方は映画ならではの工夫が凝らされています。
事件当時の様子を容疑者たちが語っていくのですが、人物の語る内容と回想として流れる映像の内容が少しずつ差異があるのです。
これによって、容疑者たちが何かの事情で嘘をついていると言うことが観客に視覚的伝わるようになっています。
ともすれば序盤は退屈になってしまいがちな古典ミステリーを、映像演出の力で観客の興味を持続させる工夫でうまくフォローしています。
2転3転する物語構造:ミステリーからサスペンスへの展開
Motion Picture Artwork (C) 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
古典的なミステリーな序盤展開から上映時間がまだ1時間以上残った段階で犯人が判明するというサプライズ展開が本作の特異なところです。
看護師マルタの回想シーンにて、真相はマルタの医療ミスによって致死量のモルヒネを投与されてしまったことを隠すためにハーランが自殺したのであるということが発覚します。
ハーランはマルタに類が及ばないように自らが考えたトリックによってマルタのアリバイを作らせます。
マルタは唯一ハーランが死んでも得をしない人物ということで探偵のブノワに相棒”ワトソン”役に任命されます。
ここから作品は”犯人捜しミステリ”からマルタがいかにブノワにトリックがばれないとうにふるまうかという”犯罪隠ぺいサスペンス”の様相を呈します。
現場でとっさに考案したアリバイトリックなので穴だらけ。詳しく調査されれば綻びが出てきます。
綱渡りのトリックを何とか隠そうとするマルタと気づきそうで気づかない探偵ブノワの攻防は緊張感とコメディが融合した絶妙なつくりになっています。
そして、マルタが探偵と攻防を繰り広げているうちに、作品の展開はさらに変化していきます。
マルタが謎の人物から”真相をしているぞ”と脅されることで作品は再び未知の人物をめぐるミステリへ回帰していきます。
監督の過去作でもこういったジャンルが次々と変化していく展開は多く、まさにライアン・ジョンソン監督の作家性と言えるものです。
アメリカ社会への風刺として
いわゆる古典的ミステリ風な外見の本作ですが、アメリカ社会への風刺映画としての側面も色濃く描かれています。
それは、本作の主人公になるハーラン・スロンビーの看護師マルタへのスロンビー家の人々の態度に表れています。
ハーランの専属の看護師であったマルタはハーランが亡くなったことで職を失う危機に陥ってしまいます。
マルタの家はウルグアイからの移民で、非常に経済的には不安定です。スロンビー家はそんなマルタに今後も援助をしたいと申し出ます。マルタは自分たちの「家族」とまで言ってのけます。
なんと慈悲深い一家なのでしょうか!、というとそうではないんですよね。
中盤、ハーランの遺言が公開され、マルタが全財産を相続するという話になったとたん、一家の態度は一変。
あの手この手を使ってマルタに遺産の相続を放棄させようと詰め寄ります。
自分たちが持たざる者になった途端にこれまでの慈悲深い態度は何処へやら。マイノリティへの差別や偏見の態度を隠すことも忘れ、己の利益へ執着する。
結局、彼らの慈悲深い態度というものは、信念や真心から表れるものではなく、”持つ者”が”持たざる者”への施しに過ぎず、あくまで自分たちが優位だったからこそ出来たものでしかなかったのです。
最後のカットも非常に皮肉が効いています。
マルタが「My house My rule My coffee」と印字されたカップを片手にスロンビー一家を二階から見下ろす構図。
移民でありながら相当な勉強が必要であろう看護師の資格を持ち、正直者で、自らの進退を顧みず人命を救おうと行動したマルタ。
一方、ハーランが築いた財産に胡坐をかいて、自らの我欲のために他人を蹴落とそうとしたスロンビー家。
最後の最後にこの上下が逆転するというのが、痛烈な皮肉になっています。
作中の視覚的な上下と格差をうまくリンクさせた作品は、『パラサイト 半地下の家族』があげられますね。
ハーランはなぜ遺産を彼女へ残したのか
Motion Picture Artwork (C) 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
長女のリンダは作中「ずっと父の作った物語の中にいるよう」と語っています。
スロンビー子供たちはみな、ハーランが築いた財産に頼って生きています。ハーランの著作を出版していたり、資金援助によって事業をやっていたり。
これはハーランが作り上げた物語(=財産)に囚われているのです。ハーラン自身もそのことについて自覚していたからこそ、物語からの脱却の最後のチャンスとして、家族には遺産を渡さないという選択をしたのでしょう。
一方、なぜマルタに全財産を相続させる選択をしたのかと言うと、彼女の生き方と真心を信じたからでしょう。己の境遇に甘んじることなく努力をしながら、真心を無くしていない彼女ならきっと私利私欲で財産を食いつぶすことはしないでしょうから。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回は映画『ナイブズ・アウト/刃の館の秘密』の感想・考察を紹介しました。
ぜひ、新犯人は劇場で確かめてみてください。
既に続編の話も出ています。シリーズ化熱望です!
それでは、また。