オークワフィナ主演『フェアウェル』ネタバレあり感想・解説:笑いと涙とアイデンティティを探す物語。

スポンサーリンク
感想・レビュー

 

どうも、こんにちは。

はりー(@hcinemadowntown)です。

今回はオークワフィナ主演『フェアウェル』をネタバレありでレビューしていきます。

2019年の全米公開当初はたった4館でスタートしたものの口コミで評判が広まり、公開3週目にして全米TOP10入りを果たしたという異色の作品。

主演のオーク・ワフィナは、ゴールデングローブ賞で主演女優賞を受賞するなど賞レースでも数々の賞を獲得。

こんな映画を届けてくれたのはどこだと思ったら、やっぱり「A24」でした。

映画のはじめに「A24」のロゴが出たら”今日の映画は勝ちだな”と、思えるくらいの信頼のおける名スタジオ。誕生して10年未満のスタジオながら『レディ・バード』『ムーン・ライト』など数々の名作を生み出しています。

新進気鋭のスタジオと多彩な経歴をもつ主演女優による、笑いあり涙ありの故郷をめぐる物語です。

それでは、いきましょう。

Contents

スポンサーリンク

あらすじ

NYで暮らすビリーは、中国に住んでいる祖母ナイナイといつも電話するほどの大の仲良し。ある日、祖母が余命三ヶ月のガンを患っていることを知らされ、祖母へ会いに中国へ帰郷する。

親族で祖母へはガンであることを知らせないと決めたので、親族一同が集まる口実として、いとこの結婚式をでっちあげることに。

ちゃんと本人に伝えるべきだと主張するビリーと、伝えないのが優しさと反発する家族。葛藤しながら結婚式の準備を進めていく中で祖母から逆に元気をもらっていくビリー。

ふたつの故郷で揺れ動く日々を過ごす中、とうとう結婚式の日を迎える。無事にでっちあげの結婚式を終えることはできるのか。

そしてビリーはどういった結論を出すのか。

キャスト

ビリー:オーク・ワフィナ

ビリー オークワフィナ

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

中国生まれ、ニューヨーク育ちの中国系アメリカ人。幼い頃にアメリカに渡ったので、中国語はあまり得意ではない。学芸員の夢を持っているが、中々チャンスをゲットできずにいた。そんな中、大好きな祖母ナイナイが余命三ヶ月であることを知らされ、帰郷を決める。

演じるのはオークワフィナ

女優でラッパー。本作の主人公と同じく、中国系のアメリカ人。彼女自身は生まれもアメリカ。10代の頃から音楽制作を始め、14年にはセルフプロデュースのデビューアルバム「Yellow Ranger」をリリース。

『オーシャンズ8』、『ジュマンジ/ネクスト・レベル』と話題作への出演が続いている。本作での演技が高く評価されて、ゴールデングローブ賞主演女優賞をはじめ、数々の映画賞を受賞・ノミネートされている。

アーティスト名の「Awkwafina」は、「Awkward」と「fine」を組み合わせた造語。”不器用だけど気にしない”という思いが込められている。

ハイヤン/ビリーの父親:ツィ・マー

ビリーの父親

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ビリーの父親。25年前に妻と幼いビリーを連れて、アメリカへ渡る。仕事は翻訳家。

演じたのは、ツィ・マー

香港出身の中国系アメリカ人。

『ラッシュアワー』、『ラッシュアワー3』、『メッセージ』などに出演。近作では『タイガーテール -ある家族の記憶-』、実写版『ムーラン』など父親役が多い。

ルー・ジアン/ビリーの母親:ダイアナ・リン

ビリーの母親

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ビリーの母親。姑のナイナイとはあまり仲が良くない。

演じたのは、ダイアン・リン

上海戯劇学院で学び、学士号を取得。その後は、数々の主演をし、中国歌劇界の有名キャラを多く演じた。90年代にオーストラリアへ移り、多くの映画・TVシリーズに出演している。

ナイナイ:ビリーの祖母:チャオ・シュウチェン

ナイナイ

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ビリーの祖母ナイナイ。

演じたのは、チャオ・シュウチェン

中国で最高レベルの演技者が選出される「国家一級演員」(過去、ジャッキー・チェンなども選出)にも選ばれ、中国で絶大な人気と実力を誇り、“映像芸術の母”と呼ばれている。

アイコ/”嘘”の結婚式の花嫁:水原碧衣

アイコ

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ビリーのいとこハオハオの婚約者の日本人。ナイナイのために急遽結婚式をする羽目に。

演じるのは、水原碧衣

中国で主に活躍している日本人女優。早稲田大学を休学して、北京電影学院の演劇科に留学。留学生として初の首席卒業を果たす。その後は、映画・TVシリーズで活躍。2016年には東京国際映画祭の東京・中国映画週間で初主演映画が金鶴賞を受賞して話題に。

中国では吹き替え声優としても多数の作品に出演しており、バラエティ番組などでもマルチに活躍している。

『フェアウェル』ネタバレありレビュー:キッカケは優しい”嘘”から

”「Farewell(フェアウェル)」は、「さらば/ごきげんよう(別れの挨拶)」の意味”

キャストはほとんどアジア系のみでヒット!

フェアウェル

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

本作はキャストのほとんどがアジア系で、全編通して中国語にもかかわらず、アメリカで高い評価を得た珍しい作品。中国とアメリカのそれぞれの文化・価値観がよく表現された家族の物語です。

ルル・ワン監督も中国系アメリカ人で、本作は監督自身の実体験をもとに作られました。

近年では、アジア系をフューチャーしたハリウッド作品で2018年の『クレイジー・リッチ』の大ヒットが挙げられますが、あちらはド派手な娯楽作品の色合いが強いのに対して、『フェアウェル』は家族の死が迫る中、西洋と東洋の家族観・死生観を上手く対比させた静かな作り。

アメリカと中国:ふたつの故郷で揺れるアイデンティティ

フェアウェル

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

本作は登場人物の口から語られるように、東洋と西洋の価値観の対比が色濃く描かれます。その対比が最も現れるのは、本作のテーマである「祖母に余命を伝えるか、伝えないか」です。

余命問題というのは、なまじっか正解がないので、こじれやすいんですよね。余命短い家族とどうやって過ごすのかで揉めた経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかも、本作ではそこに西洋的・東洋的な価値観の対立まで入ってくるので問題の根は深いです。

中国では、余命を伝えないのが一般的らしく、親族はナイナイへ余命を伝えず、すこしでもハッピーな気分で過ごしてもらいたいと思っています。「ガン患者は余命ではなく、恐怖でなくなる」と言われるくらいに、告知を避ける傾向のようです。

これは恐怖の側面というよりも、時として個人の意志や権利よりも家族・コミュニティを優先しがちという東洋的な価値観の現れだと思われます。

一方、アメリカでほとんどの時間を過ごし、西洋的な価値観のもとで育ったビリーにとっては、これが納得できない。個人の権利や自由意志を重んじるアメリカならではな反応ですよね。

ハリー
ハリー

ちなみに、日本だとわりと伝える派も多いんじゃないかなと思いますが、どうなんでしょうね。

東洋よ西洋の対比を描く本作ですが、決してどちらかに寄りかかった表現はしていません。冒頭ビリーは奨学金の募集に落ちている描写があります。個人の権利や意志を尊重するあまりセーフティーネットが弱くなってしまいがちなアメリカの側面をさらっと描いています。

それと対比して、中国へ帰ると家族や親族、近所のひとまで何かとビリーを構ってくれる人が現れます。お節介がときとして煩わしい一方で孤独を回避できる繋がりがあると。

どちらにも、良い面・悪い面があることを画面の中で自然に描写するところが見事でした。

中国の家族描写はコミカルで微笑ましい

本作は“祖母の余命”というテーマのため、全体的にはシリアスよりです。ですが、そこにたびたび挟まれるコメディ描写が一服の清涼剤といった感じで、作品全体が重苦しくなりすぎないようにしてくれています。

冒頭の中国で家族が集合している場面は気まずさと可笑しさが同居した絶妙な場面でした。

ナイナイに余命を告げないと決め、嘘の名目で集合した家族たち、嘘に賛同していないビリー、何にも知らずご機嫌なナイナイの三つ巴。

ビリーがうっかりホントのことを言ってしまうのではとあたふたする家族の仕草が絶妙な案配でした。

ナイナイ自身のキャラクターも見事な中国のオカンといった感じで。

夫に先立たれ、家長のポジションにいるためか、パワフルに周りを振り回します。

結婚式の準備も一番の張り切りで、シェフにメニューが違うからと詰め寄ったり、前撮りでは新郎新婦のポーズまで指導する始末。

そして、何より中国の結婚式のド派手っぷり。飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。しまいには酔っ払って中国の山手線ゲーム的なのまで。

負けたら一杯なんだけど、中国のお酒たまからキツそう。

ナイナイも大層ご機嫌で、家族も“ナイナイが楽しそうだったら、良かった”といった感じ。

コミュニティーの連帯感を何より大切にする中国らしい描写でした。

ラスト飛び立つ小鳥は、希望のメタファー

フェアウェル

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ラスト、結局ビリーはナイナイに余命を告げないという家族の選択を受け入れます。

当初は受け入れられないとひとり家を飛び出したときと、ラストに結婚式から家族と一緒に出てくるときのカットが同じ構図なのが印象的です。

結婚式も終わり、アメリカへの帰国の日。

ずっと中国に残りたいというビリーの背中をナイナイが優しく押し出します。

もしかしたら、もう二度と会えないかも知れないという思いを抱えて。

送り出すナイナイの表情を見ると、ハッキリとはわからなくても自分の病状には気づいているのでしょう。

でも、お互い言葉にしない。少しでも幸せな時間を一緒にしたかったから。

アメリカに帰ったビリーは、色々なモヤモヤを吹き飛ばすようにナイナイに習った太極拳のかけ声を“ハッ”と出します。

アメリカのビリーの部屋に現れた小鳥、中国でひとりホテルで過ごしていたときに現れた小鳥、そして、ラスト太極拳のかけ声と共に飛び立った沢山の小鳥たち。

異なる時間・場所で繰り返されるモチーフは、違いはあってもどこかしら繋がりはあるんだよ。ということを可視化したものなのでしょう。

完全には理解しあえなくてもどこか繋がっている。そう感じさせてくれる終わりでした。

おまけにはナイナイのモデルになった監督のおばあさんが、6年立っても元気に「ハッ!ホッ!」と太極拳のかけ声してる本人映像で終わるニクい作り。

おわりに

今回は映画『フェアウェル』の感想をネタバレありでレビューしました。

こういったアジア的な価値観や文化を誇張せず、静かに描いた作品が評価されたのはアメリカで多様な作品が受け入れられ始めている現れかもしれません。

二つの価値観を丁寧に描き、その間で揺れる主人公を繊細にみせた良作でした。

それでは、また次の作品でお会いしましょう。

タイトルとURLをコピーしました